SA2-2。
続きですがね。
「CGクリエイターのためのパントマイムワークショップ」というセッションに参加したんですが。
講師の荒木さんは ActVert という会社をやっておられる方ですが、もともとはイギリスでパフォーマンスの活動をしていた人だそうです。ストリートパフォーマーという意味なのかどうかはわかりませんが、パントマイムなどをやってきたそうです。
その後日本に帰り、とあるきっかけからセガさんにおいてアニメーションやキャラクタの芝居などを教えるワークショップをやるようになったそうです。
荒木さん曰く、ゲーム機が新しくなりつつある時期で、ホネ構造を持ったキャラがガンガン動いたりするゲームが増えた。でもゲーム会社のアニメータ達はそういうキャラを動かすべくトレーニングされてなかった。専門学校などではソフトウェアの使い方だけに終始しており、マニュアルの1ページ目から順に読んでいくような授業しかやってなかった。そういう背景が演技のワークショップを始めるきっかけになった、という意味のことを言っていました。 ご自身も今では 3Dソフトウェアを使ってモーションを作ったりするそうです。
で、今後のアニメーション作りやキャラ作りに活かして下さいという感じで、パントマイムやらなんやら、芝居をする上で気にすべきことや基本的な概念を教えるワークショップが始まったわけです。ワークショップなので、講義を聴いているだけではなく、参加者も実際にそこで何かをやるわけですね。 なので会場の半分は椅子が取っ払われて、自由に動ける広いスペースになっていました。
最初は講義っぽい所から始まって。
一般の映画やドラマの芝居においては、役者は内側(感情)から役になりきろうとする。悲しい場面では自分の悲しい体験などを思い出し、その気持ちになろうとするらしい。 そして役者の周りにあるセットやプロップは基本的にリアルである。
これに対し、荒木さんの言う「フィジカルシアター」においては、役者はまず体を動かすことによって役になりきろうとする(外側から)。 つまりまずは体をある状態に持っていくことから、その気持ちになりきろうとする。 役者の周りにはセットも小道具もない。全てのモノ・事象は体の動きで表現する。
という前提だそうで。 とにかく頭を使うより体を動かせ、体を動かしてみればその気持ちにもなりきれるんだ、というアプローチを取ろうと言っているように聞こえました。 うむ、なるほどね。
とにかく体を動かすことに抵抗をなくしましょう! と何度も強調していました。これ大事ですよねえ。
・・・・若僧と仕事しているとき、アニメーションのチェックとかで、俺が大汗たらして「もっとこう! もっとにらんで! にらむ時って上目づかいになるでしょ! ほらにらめにらめ気持ち入れてにらめ おら腰入れろ 俺のポーズマネしろやホレ 戦ってんだから腰がそんなに高いわけねえだろ 手ぇ抜くな思いっきりパンチしろ笑うんじゃねえ真面目にやれゴルア」 などとエラそうに指導するわけですよ。こっちは筋肉痛になるくらい本気です。息が切れます。やり過ぎてたまに怪我することもあります。
でも、それに対する若僧の反応はだいたい、
・いや、いきなり動けと言われても・・・ (顔は戸惑い・困惑)
・そんな恥ずかしいことできないっすよう (顔は薄笑い)
・はいはい、やりますよ はいやりますから (顔はニヤケて、一応動いてみるけど、気持ち入ってない)
こんな感じに分類されますかね。要は、自分が作るモーションなのに、自分で芝居ができない、と言うよりもやろうとしない。俺に言わせりゃ、これだけ役になりきって動いて汗たらして息切らして動きをつかもうとしてもなかなか良いモーションにならないというのに、その気すらないんだったら、そんな奴はアニメータを辞めた方がいいですよね。そんなに恥ずかしいかなあ。ショボいモーション出してくる方がよっぽど恥ずかしいんだけどなあ。
などと常日頃思っていたので、とにかく動け恥ずかしがらずに動け、そこからつかみましょうという荒木さんの基本姿勢は実にツボにはまりました。やっぱりこうでないとねー。
で、その後は実際に体を動かすことになりまして。
まずは準備体操をし、その後、恥ずかしがらずに演技するためには心もほぐし、相手を信頼する必要あるという趣旨の元、トラストゲームってのをやりましてね。二人一組になって、ひとりは目をつぶる。もうひとりはその人の名前を呼ぶ。呼ばれたら目をつぶったまま声がした方向に歩いていく。誘導役はまわりの人にぶつからないよう、何度も名前を呼ぶことになる。相手の名前を呼ぶのと、ぶつかりそうな時に「ストップ」と言う以外は、一切ものを言ってはいけない。 目をつぶっている方が100%相手を信頼しないと歩けない。 なかなか面白かったですよ。参加者の顔には笑顔が出てきて、だんだん打ちとけ合っていくという状態でした。まさにそれが目的だったんでしょうね。
その後はパントマイムの実技だっけ。 あんまり詳しく書くと ActVert さんの業務を妨害することになりそうだから控えるけど、実際にパントマイムの基礎を教えてもらって、テーブルのコップを持ち上げる、とか、押すとか引くとかの動きを練習しました。 見る→準備する→コンタクト→クリック→アクション→リアクション こんな感じでひとつひとつの意味や概念を説明してもらえたので、とても参考になりましたね。個人的には、モーション付けにすぐにでも役に立ちそうなちょっとした、しかし重要な概念を得ることができました。
体の動きを人に説明する時に、曖昧ではなく具体的で分かりやすい言葉で伝える習慣を身に付けましょうという意味のことも言っていましたね。「やさしい動き」「こわい人」などの表現では人によっては受け取り方が違う。なので、体のどのパーツがどの方向にどの速さでどの程度動く、というくらい具体的に説明できるよう努力すると、動きに対する意識・観察眼が磨かれるという意味のことを言っていました。
モーションを付ける時、個人的には、実時間の動きとスローモーションの動きをやってみることが多いのです。スローにすると体のパーツの動く順番がよくわかるからです。自然に演技してみて、その後その演技を忠実にスローでトレースしようとすると、あ、今頭が動いた、あ、腕振る前に肩が入った、などと順番がわかるんですね。 これをFカーブの形(敢えてキーの位置とは言わない)に置き換えることが、自分にとってのモーション付けそのものという気がします。
これに加えて荒木さんの言うように「まずはここが、こういう風に動く」などと明瞭なコトバになるよう考えると、さらに磨きがかかっていくような気がしたんですよね。
その後は Status の話。 Status = power relationship between characters on stage。舞台上のキャラの力関係。 外見・態度・言葉・職業など全て。 一人だけでは成立しない概念で、複数のキャラがいて、あるキャラに対し他のキャラがどう振舞うかによって Status が決まる。Status が固定とは限らず、常に変化し得る。Status の急激な変化はドラマを生み、大きな感動や笑いなど見ている者の心の動きを喚起させる。Status の違いにより芝居は当然変化する。
などなど概念の話でしたが、なかなか参考になりました。映像を作るとき、演出家と打ち合わせして、コンテ読んで、演出意図をちゃんと理解できたとしても、通常演出家は Status がどうのこうのという話はしません。しかし我々現場の人間が、たとえ演出家に Status というコトバを使って説明されなくとも、このキャラたちは現在こういう Status の関係だなと勝手に意識することができれば、しぐさ・表情などでより説得力のある芝居を付けられるなと思ったんですよね。
ちなみに Status というコトバは芝居の世界では普通に出てくるそうです。
その後は Status を利用した芝居の実技。8人の志望者を募って、ある設定のもとに芝居をさせるというものでした。俺はもちろん志願しましたよ。これが面白くって。
8人がトランプのカードを1枚ずつ引きます。それぞれ1~8の数字のどれかになっているわけで、この順に Status が決まります。お互いの数字は知らないし、芝居に参加してない観客も知りません。 そして企業の入社試験の面接会場の待合室という設定。ひとりづつ架空の部屋に入ります。そして自分の Status に合った芝居をします。次の人は、前の演技者を見て、あ、あいつは俺より Status が下だな、などと想像して部屋に入っていき、相応の芝居をします。これを8人繰り返します。 やがて8人全員が部屋に入り、それぞれの Status に応じて、尊大な態度を取る人もいれば、隅っこで小さくなっている人もいるという状態になります。やがて面接官(荒木さん)が現れ、ひとりひとりに質問をします。そこでも、自分の Status に合った受け答え方をします。 こうして演技が終わり、観客のみなさんが8人の Status の順番を当てる、というものでした。 いやーがんばって芝居しましたよー。
Status というものは相対的であるからして、他の人の芝居をよく観察する必要が出てきます。また、この人がこうしたから、自分はそれより Status が上だからここまではやらないといけない、などと考える必要も出てきます。結果、自分の芝居(動き)に対する感覚が研ぎ澄まされていく、というのがこのトレーニングの趣旨なのでしょう。たぶん。
ま、このセッション内でそこまで突き詰めてやったわけではないのですが、俺にとっては考えたこともなかった概念なので、実に新鮮で楽しかったのです。これが血となり肉となる日がくれば、いいモーション付けや、それだけでなくいいカメラワーク(フレーミング・レイアウト取り)なんかにもつながっていくんじゃないかと思いましたね。
これは、俺が参加した芝居が終わって、第2回の時のようす。
バースデイパーティという設定で、一人がホスト役(誕生日である当人)であり(彼もある Status を持つ)、次々に訪れてくる友人との会話のやりとりで Status を当てるというものでした。企業面接の時とルールは同じ。 俺は観客として観ていました。 いやあ、面白かった。
荒木さんの ActVert という会社は、業務としてこんな感じのワークショップをやっているそうです。今回の SIGGRAPH でのワークショップは、その出張版とうか、ダイジェスト版みたいな感じなんでしょうかね。 次回は2010年1月から計4回のシリーズ(週1回 x 4週)があります。
https://sv20.wadax.ne.jp/~actvirt-jp/ptw/detail.html
俺も参加したいんだけど、うーむ、1月は難しいんだよな・・・。 もちろん有料ですが、これ、興味ある人は一度やってみるといいと思いますよ。ゲーム屋さんのアニメータとか、アニメの手描きのアニメータとかはもちろん、演出家の人に是非参加して欲しいですね。 特に、記号的で型にはまったことばかりやっているTVアニメの職業演出家な人には、いいビンタになるんじゃないでしょうかね。言いすぎですか。そうですか。
そうそう、このワークショップはユーザの要望に応じて出張してくれるそうです。計30時間の長いやつもあるみたい。お金が出せる大きな会社とかにはいいかもしれませんねえ。
それにしても疲れた。4時間くらいだっけ。ただでさえ SIGGRAPH の色んなセッションで疲れているのに、追い討ちをかけるように体を動かしたので、終わったときにはなんだかぐったりしてました。
でもまだ終わらないんですね。 エレクトロニックシアターはこの日の夜の回のチケットを買っちゃっていたので、疲れていても観に行かないわけには行きません。 パシフィコ横浜内のコンビニでサッとメシを買って食い、その後はメインホールに突撃しました。
いい作品がいっぱい出てたので色々喋りたいこともあるんですが、きりがないので少しだけ。
最優秀賞は Anchored というやつでした。
いやー 美しい作品でなかなか感動しました。好きですね。まだ詳しく調べてないけど、調べないとな。
ただ、思うにこの作品は、2コマ打ちや3コマ打ちでやるとなお良かったのではないか? 1コマ打ちはここぞという所で必殺技的に使ったほうが良かったのではないか? と思いました。絵のテイストからなんとなくですけどね。
↓受賞者の人。
わあ、綺麗な女の人じゃないですか
ちなみにシモテ側の白いスーツの人は司会の人です。カミテ側の黒いスーツを着たおっさんは、テクニカル最優秀賞の Assassin's Creed の人です。このムービーもスヴァらしいけど、もうあちこちで何回も見たからまあいいや。
Cat Shit One はとても良かったけど、あれは字幕を付けた方が良かったのではないか。アメリカの人とか好きそうだし。
われらの鳩ぽっぽも、ちゃんと出てましたよ。ルーカスさんすげえな。この鳩ほんとに世界中めぐってるな。
Peeping Life は、ガイジンさん達には面白かったんだろうか。笑いは出てましたけどね。
これ、プレスコですよねえ? アフレコじゃ無理だよなあ。
Steel life というやつが、とても綺麗でした。
この手の、なんつうか、抽象的で綺麗系で DOF バリバリな作品は、いつも日本人が SIGGRAPH に出していたというイメージがあるんですよね。しかもプログラマ的な人がプロシージャルに作っていることが多かったような気がする。今回は日本人のそういう作品は見当たりませんでした。
Divers というのも良かったんだよなあ。
これはトレイラーだけか。全編見れるやつは WEB 上にないのかな。
作者の人のページ。
http://www.parismav.com/divers.php
わ、すげえこの人、TDっぽい人なんですね。Animation Tools というデモリールが面白い。
http://www.parismav.com/demoreel2.php
Wii のコントローラで動きをキャプチャしてますね。画ブレ手ブレにいいなあこれは。あと、midi の音データインプットをアニメーションクリップのトリガにしたり。 パラメータをイコールで結ぶんじゃなくて、ある一連のアクションのトリガにするっての、昔からやりたかったんですよね。XSI でもできるかしら。
ちなみにこの作品は Maya で作られてますね。なにやら詳細な PDF があります。
http://www.parismav.com/gallery/motion/divers/parisThesisPaper.pdf
うー 読まねえとなあ。。。宿題がどんどん溜まる。。。。
この Divers という作品は、失礼ながらモデリングもシェーディングもアニメーションも最高に良いわけでは決してないんですが、そしてまあよくある系統のネタだとは思うんですが、単純に楽しかったし、気持ちよかったです。スカイダイビングやってみたくなります。ジェットコースターがダメな俺には夢のまた夢なんでしょうが。
ピクサーや Lucas Film のやつは、入選ではなく招待上映みたいな感じですね。にぎやかしとしては結構ですが、うーむ、こんなところで上映しなくてもいっぱい見れる映像なんだから、こういう大手プロダクションの作品は、SIGGRAPH 用に作って応募してきたのでもない限りは除外して、その時間を使って他の作品を流して欲しかったですね。
21時にやっと終了。もう死ぬ。
でも体にムチ打って、ヨコハマルに行ってきました。
クラブって言うんですか、こういう店。 なんだか俺には縁遠い。
知り合いを見つけてちょっと挨拶。ビール1本だけ呑む。
もうヘロヘロになりつつあったので、30分くらいで帰っちゃいました。ライブ観たかったけど、翌日もまだ SIGGRAPH は続くし、ここで体力を使い切るわけにもいかない。
Gさん、サッと帰っちゃってすいませんでした。またそのうち呑みましょう。A-hole はもう大丈夫なのかな。
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